つむぎ語り~心を紡ぐ、言葉の旅

語り口調のエッセイよ。

母の専業主婦デビュー~ポツンと生活から始まる長電話地獄~

あたしの母ってね、波瀾万丈って言葉がぴったりな人なのよ。

父と離婚した後、お店の常連だった男性とくっついたわけよ。

「えぇ、こんな展開アリ?」って感じで一緒に暮らし始めたんですわ、ドラマチックすぎて笑っちゃうわよ!

でね、結婚はしてないけど、もう20年くらい仲良く暮らしてんのよ。

あたしなんて「よくそんなに続いてるわね!」って感心しちゃう。

しかもよ、相手が12歳も年下でね、これがまた優しいの。ずっと幸せそうで何よりだわ。

そしてね、ややこしいんだけど、あたしの旦那はあたしより16歳年上なのよ。

で、母の彼氏があたしの旦那より年下って、これどういうこと?

まあ人生なんてそんなもんよ。年齢とか肩書きとか、気にしてたら何も始まらないわ。


さてさて、母はね、長年父と一緒にお店を切り盛りしてきたんだけど、いきなりサラリーマンと暮らすようになって、専業主婦デビューってやつよ!

母は実はサラリーマンの嫁になるのが夢だったらしいのよ!

ずっと働き者で、バリバリお店を切り盛りしてた母が、実はひそかに「サラリーマンの嫁」になりたかったなんて、もうびっくりよねぇ。

夢が叶ったわけだから、これはこれでよかったんだろうけどさ、現実に専業主婦デビューしてみたら、「あれ?こんなに時間があるんだ…」ってちょっと戸惑ってたんじゃないかしらね。

今まで朝から晩まで子育てと仕事に追われて、毎日がガチャガチャ、ワイワイ、もうほんとにてんてこ舞いだったのに、いきなり「はい、今日からお家に1人でいなさい」ぽつんってわけよ。

やっぱり、夢ってのは持ってるうちが花なのかもねぇ。

子育て終えた専業主婦って、洗濯して、掃除して、テレビ見ながら「あら、このタレント最近老けたわね」なんて考えたりして、のんびりと過ごすイメージでしょ?

その、のんびりも母にとっては慣れないもので、しかも新しい土地で知り合いゼロ!車の免許も持ってない、自転車すら乗れないって、これ詰んでるじゃない!

それでなんとか唯一見つけた楽しみが、まさかのパチンコよ。

普通なら「編み物始めました」とか「お料理教室通ってます」とか言うところ、うちの母はパチンコ!

賑やかな所を選ぶとこが母らしいわ。

そこで友だちができたって言うんだから、母ってどこでもやっていけるんじゃないかしら?

波乱の中でも強く生き抜く女よね、ほんと。


あたしと母の家って、ちょっと離れてるから年に数回しか会えないのよ。
でね、会えない分、毎日のように電話がかかってくるわけ。

しかも、1日数回とかザラよ!で、その電話がまた長い!3時間なんて、彼女にとってはウォーミングアップだから。

こっちとしては「まだ終わらないの?」って、こっそりキッチンタイマーでも置きたくなるくらいよ。

しかもね、こっちの話なんて一切聞かないの!一方的に話しまくるから、まるであたしがポッドキャストのリスナーになった気分よ。

「まだ続くの?」って思いながら、母のトークショーを毎日聞かされるわけ。

まぁ、話し相手があたししかいないのはわかるんだけど、あたしもその頃は子育てに追われてバタバタしてたし、そのうえ孫が生まれてからさらにてんやわんや。

しかも、趣味だってあるのよ!

正直めんどくさいわぁって思う時もあったわけよ。

妹夫婦には子供がいないんだから、妹に電話すればいいじゃないって思うのよ。

でもね、うちの妹、人づきあいを基本的にシャットアウトしてるタイプなのよ。

母が電話したところで仕事してるし、さっぱりした電話の切り方されるみたいでね。

「ちょっと忙しいから、じゃあね!」って、早々と切られるみたいなの。

そんなわけで、聞いてあげるあたしにしか電話しないのよ。

もうね、その電話攻撃にあたしも正直イライラする時期があったわけ。

だって、こっちは生活が大変で悩みだらけな時期よ。

母に相談したいことだってあるのに、彼女は一方的に話すから相談なんて無理!

あたしはただ聞いてあげるだけの役割なの。

まるで母の長編モノローグを聞かされてる感じよ。

心に余裕がある時はね、穏やかに聞いてあげられるんだけど、余裕がない時は、ちょっとした一言でも「カチン」とくるわけよ。

そして、つい反発して口論に発展することも多々あったわけ。

あの時期はケンカばかりしてたけど、今思えば、母は更年期障害だったのかもねぇ。


そんなこんなでね、2016年に父が他界したのよ。

長年寄り添ってきたわけだから、いろいろと思うところもあったでしょうねぇ、母も。

ただね、今の旦那様の手前、さすがにその気持ちを表には出せなかったみたいなのよ。

あたしもさ、あの場面で「ちょっと、母、どう思ってるの?」って突っ込むわけにもいかないし、そりゃ複雑な心境よね。

まぁ、父が亡くなったこと自体はさすがにショックだったけど、離婚の原因が父の度重なる浮気だったからね。

浮気するたびに「またかよ!」ってこっちも呆れてたわけで、正直、あたしの中でも軽蔑してる部分がなかったわけじゃないのよ。

「父親としてどうなんだ?」って思うこともあったわけ。

けどね、そうは言っても、やっぱり父は父。

完全に嫌いになることもできないのよねぇ。わりと子煩悩な父だったし。

それでね、亡くなった後に「ああ、あたしって親孝行なんにもしてなかったな」って、もう猛烈に後悔したのよ。

これね、「いつかやろう」って思ってたことが、いかに甘いかってことを痛感したわ。

だってさ、その"いつか"なんて、来ないこともあるんだから。

ほんと、心底悔やんでるのよ。

父の余命を聞いてから亡くなるまでの間、あたしも考えたわけよ、両親のこととか、2人がどんな気持ちだったのかとかね。

母もきっといろいろ複雑な思いがあっただろうし、父だって、表には出さなくてもいろんなこと感じてたんじゃないかって。

そう考えると、親も人間としていろいろ抱えてるんだなって、あらためて思ったのよね。

母はね、そりゃもう、さぞ寂しかったんだろうなって思うのよ。

気持ちをぶつける場所もなくて、唯一のはけ口があたしとの電話だったんでしょうね。

あたしに延々と話し続けることで、少しでも気が紛れてたんじゃないかしら。

でね、そう考えるようになってから、あたしも母に対する気持ちがずいぶん変わったのよ。

今まではさ、「また長電話かい!」なんて思うことも多かったけど、もう後悔したくないって心底思ったの。

母を大事にしよう、思いやりを持って接しようってね。

母の言葉一つ一つに感謝するようになったら、あら不思議、全部がありがたく感じられるようになってね。

「あぁ、こういうことってあるんだなぁ」って思ったわ。

結局、気持ちのもちようひとつで、見える景色が変わるのよね。

母の旦那さんが退職してから、これがまた驚くほど電話が減ったのよ。

もうね、びっくりするくらい、あの3時間長電話がぱったりよ!

どうやら2人で仲良く、毎日どこかしら出かけてるみたいなの。

「あら、母も第二の青春かしら?」なんて思って、微笑ましいわよね。

そんでね、あたしから電話することも増えたのよ。

やっぱりね、母が元気なうちに、たくさん話しておきたいって思うの。

母がいてくれるだけでありがたいって、今は心から感じるのよね。

だから、妹にも「後悔しないように、今のうちにいっぱい母の話を聞いときなよ」って、ついつい思っちゃうわけよ。